君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】



託実くん……。

その存在を、こんなにも意識してしまってる
自分自身の心がわからなくて戸惑った。





あっ……寝返り。
掛布団、落ちちゃった……。




私はベッドから這い出して、
ゆっくりと立ち上がると、
一歩ずつ足を踏み出して、向かい側のベッドへと向かう。


床に落ちてしまった薄い掛布団を拾い上げると
託実君の体に、そっと掛ける。



あっ……睫毛、結構長い?



眠る託実くんの顔をじっと見つめながら
規則正しい寝息に耳を傾ける。




こんな風に誰かを意識して
見つめることなんてなかったのに……
どうして私は彼が気になってるんだろう




私なんかが関わっても、
多分、迷惑なだけのはずなのに。



全てを諦めて自分を閉ざそう、
閉ざそうと自己暗示をかけても
彼は簡単に私のフィールドの中に入り込んでくる。




そんな戸惑いに怖さを感じるものの
好奇心も留まることはない。



ゴソゴソっと彼が再度寝返りを打ったのにびっくりして、
私は何事もなかったかのように装うと自分のベッドへと戻った。




それでも彼は起きる気配がない。





病室の外に足音が響きだした頃、
私はいつものように、
かおりさんを迎える支度をする。






ぴたりと止まる足音。


扉が開くと同時に、
担当看護師・かおりさんが顔を出してくれる。



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