君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
「なぁ、でも心臓悪い人って携帯マズいんじゃ?
前にバスに乗ってて、俺の前の奴が電話かかってきて携帯触ってたら、
近くのばあさんに『携帯の電源落としてくれ。心臓が悪いんじゃ』っとか言われてた。
アイツ、使えるの?」
「託実、心臓が悪いからじゃなくて、ペースメーカーが入ってたらって
社会的には、携帯電話はいけないって思われてた。
だけど実際は、今の携帯は安全だと言われてる。
携帯電話よりも今は、電子レンジとかIHの方が問題になってきてるかな。
病院内だから何処でも使っていいわけじゃない。
だから使う際は、宗成叔父さんの要許可ってことにしておきたいけど、
叔父さんの承諾は貰ってるよ」
そう言って、兄さんたちは俺の病室で30分ほど滞在して
宿題退治と二学期の予習をしてた俺の勉強を少し見てくれて出ていった。
夕方近く、全ての課題を退治した俺は
兄さんたちが置いていった紙袋を覗き込む。
そこに入っていたのは、携帯電話の箱。
包装されてなかったから、機種はわかった。
ベッドからひょいっと降りて、携帯電話が使えるエリアに移動すると
すぐに隆雪の番号を呼び出す。
2コールほどなった後、
背後で音楽が聴こえる中、アイツの声が聞こえた。
「託実、どうかした?」
「悪い、出掛けてた?」
「外は外かな。
スタジオでギターしてた。
今日、怜【りょう】さんが都合つけてくれたから」
「あっ、じゃあ無理か……」
隆雪にとってギターの練習時間がどれだけ大きいかは
俺も知ってるつもりだ。
俺が陸上にかけてきた時間も、
アイツはずっとギターに必死だった。
走らせりゃ、俺より長距離は早いくせに
アイツは、初等部から中等部にあがった途端、
スポーツ部から文化部へと転向した。