君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
12.泣き虫-託実-
何で惹かれるのかわかんねぇ。
アイツは裕兄さんが好きかも知れなくて、
もしそうだったら、
今の俺には太刀打ちできるはずもなくて。
その為には、
俺はスタートラインに立たないといけない。
まず第一の優先順位は、
病院からの脱出。
怪我の完治までは先だとしても、
退院して、遅れを確実に取り戻せる状況を作る。
もうすぐ九月、学校が始まる。
学校の宿題は、成績の都合上課題は少ないから
今日、明日のうちに片付く。
母さんに病室まで届けて貰った。
その後は……俺は俺として確実に結果を出す。
二学期は、悧羅祭がある。
悧羅祭の実行委員会とかのメンバーに紛れ込めれば、
そこで何かを出来るかもしれない。
そこに……病室から外に出たことないアイツを
招待することが出来たら、
そこからスタートラインに立てるかもしれない。
そんなことを思いながら、
今日もリハビリに宿題に励む。
初日に投げつけて壊した携帯も、
ようやく、兄さんたちが持ってきてくれた。
それと同時に、もう一台。
アイツの為の携帯電話。
「この電話を理佳ちゃんに渡しておけば、
託実は何時でも連絡取れるよね。
それに私たちも、
理佳ちゃんの演奏データーを受け取ることが出来る」
そう言って直接、アイツに渡すわけではなく
俺に手渡す。