唇が、覚えてるから
私の住んでいた町には、こんなに大きな病院はないから。
初めて去年実習に来て驚いたことを思いだす。
……ん?
そして冷静になって思った。
外科病棟って……どこ……?
私自身が、その場所を知らないことに、今気づいた。
「えっと……」
キョロキョロ辺りを見回す。
「ちょ、ちょっと待って下さいね」
「……はあ…」
初日にひと通り院内は案内されたけど、外科病棟が何階かなどまったく覚えてなかった。
広すぎるせいで、担当病棟以外のことが分からないのだ。
うごけっ、頭!
院内を思い浮かべ、一生懸命思い出そうとする。
けれど、初めから分からないものは、思い出せるはずもない。
「あっ、こっちに来てくださいっ!」
そのときタイミングよく、柱に張られた院内図を見つけ。
私が走りながら手招きすると、彼は訝しげな顔をしながらついてきた。