唇が、覚えてるから

「……あの?」


私が目を丸くしていたからか、その男の人はビックリした顔を見せる。


「あっ、すみません!……どうされました?」


素になった自分が恥ずかしい。

……患者さんに見惚れるなんて、どうかしてる。


我に返ってもう一度尋ねると、彼は顔を柔らかくして口を開いた。


「外科病棟へどうやって行けばいいかわからなくて」


声までタイプだった。

男の人にしては少し高めの、甘いハスキーボイス。


「にゅ、入院ですか?」


無意識に声が上ずってしまう。


「いや、お見舞いに行きたいんだけど、こんな大きい病院に来たのが初めてだから分からなくて」


患者さんではなく、面会の人だった様。


「そうですよねー広いですもんねー」


私は同意するようにうんうんと頷いた。
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