唇が、覚えてるから

「琴羽ちゃん……」


そんな中、一人の男の子が声をかけてきた。

一瞬誰だかわからなかったけれど、すぐに記憶の糸がつながる。


「……海翔……君……?」


合コンで会ったときは大きい黒目が印象的だったのに、今日の彼はずいぶん違った。

どれだけ泣いたんだろうと思わせる瞳に腫れた瞼は、まるで別人のようだった。

……祐樹と海翔君は、親友だったのかもしれない。


会うのは合コン以来だし、私もその先をどう繋げばいいか迷った。


……だって……

あんな非現実的な話を聞かせて……ねぇ…?


海翔君は、ここから見える祐樹の遺影を、しばし放心状態で眺める。


「祐樹、好きな子いたんだ……」


その姿勢を崩さないまま、静かにそう口を開いた。


ドクンドクン……。

胸の奥がざわつく。


祐樹に……好きな子……。
< 249 / 266 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop