唇が、覚えてるから

モニョモニョ。


「わあっ!」


手のひらの下で波打つ胎動。

感じたことのない、不思議な感触が伝わった。


「いも虫みたい……」


思ったことをそのまま口にしてしまい、


「いも虫……?」


柏原さんが再び目を丸くした。


「わーーーーっ、ごめんなさいっ!」


大切な柏原さんの赤ちゃんをいも虫だなんて。

今度こそほんとに失言!

……と思ったとき。


「プッ……」


また柏原さんが吹き出した。


「あーおっかしい。でも分かる、その表現すごくあってる。私だって初めしゃく取り虫だって思ったんだから」

「しゃくとり虫……?プププッ」


今度は私が笑った。

2人の笑い声が病室に響く。
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