唇が、覚えてるから
「そうだ。この方がもっと分かるわよ?」
柏原さんは、パジャマのボタンをはずして、直に触らせてくれた。
さっきよりもリアルに感じられる胎動。
「私が楽しいと赤ちゃんも元気なの。五十嵐さんとお喋りしていると楽しいからよく動くんだ。赤ちゃんもきっと楽しいんだと思う」
そう言っている間にも、赤ちゃんは私の手のひらの下で元気に動いていた。
命だ。
姿は見えないのに、確かにひとつの命はがここにある。
神秘的だと思った。
鳥肌が立つほど感動して、涙があふれた。
温かい涙が頬を伝う。
その涙を拭って、私は言った。
「私、実習が終わってても絶対に柏原さんの赤ちゃんに会いに来ますからね!」
一期一会。
私にとっては大切な出会いだから。