唇が、覚えてるから
ドキッ……とした。
夕日に照らされた祐樹が、長い足をけだるそうに交差させ、壁にもたれかかっていたから。
初めて見る、樟大附の制服姿で……。
男の子にこんな表現おかしいかもしれないけど、綺麗だ、と思った。
今まで"タマゴ"とか"アンタ"としか呼ばなかった祐樹が。
初めて私の名前を呼んでくれたこの日を……私は一生忘れない……。
「こっ。こんなとこで何してんの?あ、もしかして私を待ってたとか?」
そんなこと絶対にあるわけないから、冗談で言ってみたのに、
「そう」
真顔で言うから。
……私、なんて返していいのか分からなくなっちゃったんだ。