唇が、覚えてるから
「けど、息子さんはもういないわけで……。患者さんの話は非現実的なわけで……。
でも患者さんは持って1、2ヶ月だって言われているし……嘘でもその話を信じてあげたいと思う。息子さんの話をしている時だけは活き活きしてるから。
でも……この先、誰も患者さんのこと信じなくなって、誰も話を聞かなくなったら……」
今はまだ話に付き合っている看護師さんもいるけれど、そろそろ付き合いきれないって顔をしてる。
そのうち、誰も聞かなくなったら……。
それを考えたら怖い。
豹変してしまった中山さんを思い出した。
「……だから、琴羽は、どうしたいの?」
再び祐樹が口にしたのは、さっきと同じ問いかけだった。
いつもより低く落とした声で。
「私は……」
……私は。