唇が、覚えてるから

感情が高ぶったのか、肩で大きく息をする祐樹。


「……どうしようもねーことだってあんだよっ!」


言い放ち、勢いのままに立ち上がる。


「……ゆう……き……?」


切なそうな。

苦しそうな。

祐樹が私に見せた、初めての感情。


吐き捨てるように言った言葉は。

祐樹の心の叫びのように聞こえて。


そのまま去って行く祐樹の背中を、ただ見つめていた。



触れてはいけない何かがある。

きっと、自分の中で何かと闘っている。


そんなふうに漠然と思いながらも。


私はそんな祐樹を。

……追いかけることすら出来なかったんだ。
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