紙ヒコーキとアオイくん
「ていうか、由宇(ゆう)。あんたいい加減、それ書いて提出しなさいよ。小木ちゃんキレるわよ」

「う……」



彼女の言う“それ”とは、今まさにあたしが右手に持っている紙のことで。

そして“小木ちゃん”というのは、去年に引き続きあたしたちのクラスの担任になった、35歳妻子持ちの筋肉質な体育教師の愛称だ。

まだ【2年5組 春日 由宇(かすが ゆう)】とだけしか書かれていないその紙を、あたしはくしゃりと潰す。



「ふ、ふんだ。だいたいまだ高2になって3ヶ月しか経ってないのに、なんで進路希望調査票なんて書かせるのさー」

「それはあんた、この学校が高偏差値を誇る県内でも有数の進学校って時点で愚問よ」

「うう……」



杏子様の冷ややかぁな眼差しに一瞥されて、あたしはまたがっくりとうなだれた。

相変わらず、切れ味抜群の言葉と目力だこと……。



「まあねぇ、それはわかってるんだけどさー」

「……由宇」

「だけどさーあ、あたしたちまだ16歳なわけだし。将来のことなんて訊かれたところでそう明確な答えなんて……」

「オーイ、由宇さ~ん」



彼女の二度に渡る呼びかけに応じ、あたしは「何?」と顔を向けた。
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