紙ヒコーキとアオイくん
「それ、その手元。何やってんの?」

「ふう。杏子さん、見てわかんないかな? これは時に少年少女の夢と希望を乗せて飛ぶ紙ヒコーキというもので」

「そんなこと訊いてんじゃねぇわよなんで進路希望調査票でのんきに紙ヒコーキ折ってんだっつー話だっての」

「いひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」



真正面から容赦ない力でぐいぐい両頬を引っ張られ、両手をばたつかせながら抵抗する。

痛がるあたしの様子を見て満足したのか、杏子は数秒後パッと手を放した。

あたしはひりひりするほっぺたをさすりつつ、今さらながら外見優等生・しかしその実態は腹黒魔王な友人に恐れおののく。


こえぇ……一見笑顔だったけど目が笑ってなかったよ目が。



「クラスであんただけなんでしょ、提出してないの。まだ決めてないならとりあえず適当でいいから、ちゃちゃっと書いちゃいなって」

「うう……」



そうなのだ。あたしはまだ将来のことを何も決められずにいるから、こんなペラい紙ひとつにもうだうだしている。

進学か、はたまた就職か。

この学校は偏差値の高さからも、進学希望者、特に四大志望は圧倒的に多い。

高校入学以来の友人である杏子は、当初から「将来は国家公務員になるんだ」と息巻いていた。

まわりの人たちも、具体的かそうでないかはさておき、それなりに“何か”目標を持っていて。


……あたしには、何もない。

自分を前に突き動かすような何かなんて、何もないのだ。
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