紙ヒコーキとアオイくん
「……っ、」



小刻みに震えている、手のひら。

それを見下ろすあたしに気付いて、彼は小さく笑った。



「すっごい、気持ちいいでしょ? だから俺、弓道やめたくないんすよね」

「……うん……」



……うん。

何メートルも先にある、小さな的に照準を合わせて。

自分の感覚を研ぎ澄まし、矢を放つ。

その一連の動作はとても、高尚で、自分だけの空間で、そして無心になれる。


──少しだけ、わかった。君がここに、ひとりでも通い続ける理由。

未だじんじんとしびれている手をぎゅっと握りしめたところで、彼がまた、口を開いた。



「面倒くさいなあ、先輩は。何かをがんばることに、そんなに明確な理由はいらないと思うんだけど」

「え?」



思わず、目を見開いてアオイくんに顔を向ける。

彼はいつもの鉄仮面、だけどどこか真剣な表情で、あたしをまっすぐに見つめていた。



「何をそんなに悩んでるの? 全部完璧なものじゃないとダメなの? 完璧な理由が欲しいの?」

「ッ、」

「じゃあ俺が、理由をあげる」



そこまで言った彼が、不意に、笑みを浮かべる。
< 26 / 49 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop