砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
『護衛中に王女様からいただいた差し入れのジュースを飲み、意識がなくなりました。夜中に目覚めた時、私は寝台に寝ていて、隣には半裸の王女様が……』


もう王には嫁げぬ身体になってしまった、と泣き崩れたという。

バスィール大公に仕えているとはいえアミーンも砂漠の男。純潔を奪った以上、相手が誰であれ彼は命がけで責任を取ることにしたという。

普通の男なら、一度関係してしまえば後は何度でも同じこと、と思いそうだが、真面目なアミーンは違った。

同じテントで寝起きしても、『正式な婚姻までは』とレイラーには触れなかった。


『王女様を安全な場所までお連れしたら、私は国王陛下のもとに出頭するつもりでした。お許しいただけない時は一命と代えましても王女様の罪を免じていただこう、と』


そんなアミーンに、レイラーは悪魔のジュースを飲ませたのだという。

東の大国では容易に手に入る“果実酒(アラック)”だが、バスィールやクアルンでは飲むことはもちろん、持っているだけで罰せられる。アミーンも口にしたことは一度もなく、レイラーの心遣いがまさかそんなものだとは思いもしなかった。

アミーンはレイラーの純潔を奪っていないことを知ると、ひとつの恨みごとも言わず、ただ安堵したという。

そして、一連の事件がきっかけで異母兄が悪魔の力を借りてまで、王を害そうとしたことに責任を取りたいと言い出したようだ。


『十六歳の王女様を寡婦にすることだけが心残りでした。これで、心置きなく責任が取れます。兄、カッハールが悪魔の声に耳を貸したのもすべて私の罪です。どうか、生き残ったクライシュ族の者たちをお見逃しください。その代わり、私の命を王に捧げます』


サクルはアミーンの願いを叶えてやった。

バスィール公国の衛兵から、アミーンはクアルン王国の衛兵に身分が替わったという。無駄に死ぬ必要はない、いざという時には盾となって死ね――サクルはそう命じた。


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