砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
そんな王が初めて娶った妃がリーンだった。

リーンは最初こそおどおどしていたが、やがてシャーヒーンと王の関係を疑い、悲しそうな顔をした。

リーンは王女らしからぬ、思いやり溢れた娘だ。

案の定、結婚相手の王女ではなかったが、シャーヒーンは、王がリーンを花嫁にするであろうことを確信していた。


そうなれば、シャーヒーンにとってもリーンは大事な人間になる。

そのリーンに無礼な振る舞いをする男は、たとえ隣国の王子といえども、見過ごすわけにはいかない。


「この私に剣を抜くとは、女の分際で!」


スワイドはシャーヒーンに斬りかかる。

リーンを逃がしたあとは、軽く短剣で攻撃を受け流しながら、目の前の愚かな男をどう料理するか考えていた。

人間の身体でいるときのシャーヒーンは決して小柄ではない。だが、スワイドの体格は彼女よりふた回りは大きかった。

この場合、無体な真似をしているのはスワイドのほうだ。しかし、一応は王に滞在を許可された身。正式な王の客人に傷を負わせるのはまずい。

ひとまず……。

シャーヒーンは鋭い動きでスワイドの懐に飛び込み、短剣の柄で肘を強く叩いた。


「うぉっ!」


スワイドは呻きながら肘を押さえ、剣を手放す。


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