砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
「なんということだ! スワイド殿下、あなたは悪魔の水を飲まれましたね。しかも正妃様付きの侍女、シャーヒーン殿を襲うとは。許されぬことです!」


仕えて日の浅いアミーンは、シャーヒーンの正体を知らない。

たまに見かける珍しい髪の色をした美しい侍女。見かけるたび、正妃様のそばにいるので、彼が正妃様付きと思っても仕方がない。

口の利けぬ女性だとは知っていたが、その分余計に守らねばならない、とアミーンは思っていた。


「貴様、アミーンか!? クアルン王に寝返った裏切り者め!」


片腕を押さえられながらスワイドは喚く。


「レイラーを騙して連れ出しながら、命乞いした愚か者が。お前はただの恥知らずだ!」

「そうではありません! 私はレイラー殿下のお心に添うため、懸命に……」

「大公の息子である私にこんな真似をして、ただで済むとおもってるのか!? 正面から正々堂々と戦え!」


短剣しか持たぬ女性相手に、シャムシールを抜き、斬りかかったのは明らかだ。そんなスワイドに“正々堂々”などという言葉は似つかわしくない。

サクルであるなら鼻で笑っただろう。


だが、アミーンはそういった性格ではなかった。

身分の違う自分が背後からスワイドを取り押さえるという事態に、戸惑っていた。すぐに誰かが駆けつけてくれると思っていたが、衛兵のやってくる気配はない。

アミーンは困惑しながらも、スワイドを自由にした。



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