砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
アミーンに対する感謝の思いと、心を震わせる何か――。

それが、男の欲望を満たす行為を嫌悪していたシャーヒーンを変え、彼女の中に封印されていた記憶の欠片を紐解いた。


アミーンの放つ精を最後の一滴まで躰で受け止め、シャーヒーンは唇を重ねて伝える。


――ありがとう。


「え? と、とんでもないっ! 私のほうこそ……あの、こんなことをしてしまってから言うのは間違っていると思うのですが……。私の妻になってください! どうか、お願いします!」


シャーヒーンはその言葉を聞くなり目を見開き、相好を崩した。

半獣人の女に求婚とは、このアミーンという青年はなんという純粋で愚かなのだろう。


「あの……この国に来たばかりの自分ではダメですか?」


不安そうな顔でアミーンは彼女を見ている。


――私は長く性奴隷をしてきた女。おそらくは神を怒らせ、人間の資格を失った者。あなたはその気高き心を失わず、あなたに相応しい清き処女を娶るべきです。


「私も罪を犯し、王の情けで生かされている身。あなたに相応しくないのかもしれない。でも、私はあなたを――」



刹那、夜中にもかかわらず、多数の鳥の羽ばたきが辺りに広がった!


それはどこから聞こえてくるのかわからず、シャーヒーンは慌てて立ち上がり心を鎮める。黒い魔の気配を宮殿の外に感じ、裸体をくねらせ、一瞬で白鷹に姿を変えた。


シャーヒーンが闇の中を舞ったとき、気配はもう消えていた。

それと同時に、流砂に埋まっていたはずのスワイドも消え失せていたのである。


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