砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
リーンは目を丸くして、


「そんなっ!? 陛下にそんなことはさせられません」

「なら、おまえが作るよりあるまい。念願のふたりきりだ。私の世話はすべておまえがせねばならぬ。文句はなかろうな」


サクルは水桶を抱えるリーンを抱き寄せた。

ガタン、と音がして桶は地面に落ち、ふたりの足もとを濡らす。


「サクルさま……水を汲んでおきませんと」


リーンの表情にわずかだが翳りが見えた。


(なぜだ? どうして素直に喜ばぬ!?)


サクルには自分の足りない言葉がリーンを不安に陥れているなど思いもしない。

女は極上の絹と宝石で楽に機嫌の取れる生き物だった。だが、リーンだけは思いどおりにいかない。

こうまでしてせっせとリーンの望む物を与えているというのに、なぜ、もっと幸福そうな顔をしないのか。サクルは理解に苦しんでいた。


「リーン、私に抱かれることに飽きたのか? 生涯、私に尽くすと言った誓いを破るつもりか?」

「いえ、とんでもございません」

「おまえは私に、ただの一度でいいから、と口づけをねだった。私を好きだと言った言葉は嘘か?」

「いいえ……いいえ……」


リーンは青ざめ、首を横に振る。


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