砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
「……冷たい」


リーンは小さな声で言った。


日中は水温が上がると言っていた。ということは、今はもう夜ということになる。

リーンは自分が半日ほど眠っていたことを知り、驚きを隠せない。


だが、思えばこのクアルンに来てから、周囲を一切気にせず眠ったのは初めてのこと。多くのプレッシャーを感じ、緊張の中にいたことをあらためて自覚した。

サクルはそれに気づいていて、リーンをここに連れてきてくれたのかもしれない。


(半日もおひとりにしてしまったわ。ちゃんとお詫びをして、そして、お礼を言わないと)


リーンはすっくと立ち上がり、


「サクルさま! どちらにおいでなのですか? サクルさまーっ!」


息を吸い込むと大きな声で叫んだ。

天井に向かってリーンの声が広がっていく。内部に響かないのは、声が外に抜けているからだろう。

数秒待つが、やはりサクルの声は返ってこなかった。


リーンは外に出てみようと思い立ち、入ってきた狭い割れ目を探すが……。

どれほど目を凝らしてもみつからない。


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