①憑き物落とし~『怨炎繋系』~

『想い』

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 富山に向かう道中。

 連日の疲れからか、夕浬は助手席で寝息を立てていた。あと数時間で夕浬の故郷に到着する。今は少しでも体を休めてほしい。

 俺はパーキングエリアで車を止めると外の自販機でコーヒーを2つ買う。無糖のコーヒーを、後部座席に手渡した。


「……僕は甘いのが好きなんですが」

「悪いな、俺は断然無糖派でね。……なぁ、灰川さん、あんたどうしてこの業界に入ろうと思ったんだ?」

「……なんですか急に」

「いや、あんたには特別な力はないんだろ。なら普通はこんな仕事しようとしないだろ」

「……奴らを相手にするには、『異質』になるのが一番手っ取り早く、確実だ。たまたま僕はうってつけの『異質者』、要は変態だったってだけですよ」

「よくわからないが、じゃあ『異質』ってのになれば俺にも対抗できるのか? 夕浬を狙う女の霊に」

「なろうと思ってなれれば、苦労しないですよ」

「……なにか、こんな車の運転以外にも力になりたいんだよ、俺は。なんでもいい、やれることがあるなら教えてくれよ」

「奴らにとっての異質な者とは、常に自身に向きあおうとするもの。『全て』を知ろうとするもの。真相の探求者です。この異質は僕の持つ資質です。恐らくは多くの障害――例えば感情や拒絶反応から普通の人間は持ち合わせていないものです」

「まぁ、たしかに俺は灰川さんのように自分から進んで赤の他人の心霊問題に突っ込もうとはしないしな……」

「しかし、どんな人間にも個性がある限りは『異質』を内包しているものです。僕のような常時異質であるという事ではなく、瞬間的に、爆発的に、その時だけの限定的なものですが」

「それって例えばどういうものなんだ?」


「例を挙げるなら『突発的な殺人衝動』や『異常性癖の開放』ですかね」


「聞いた俺が馬鹿だった」


「冗談ですよ。岡田さんに当てはめるならきっと『自己犠牲』ですか。無論、程度によりますが」


「自己犠牲って、俺にはあんたのがよっぽどそう見えるけどな」


「対抗しうる存在かどうか、というのはその霊の『存在理由』に起因します。岡田さんのもつその強い感情が今回の相手に当てはまるのなら、自然に事象が導くはずです」



 魂には魂でしか、干渉することはできないってことか……。



「…………そういうものなのか」


「……コーヒー、ごちそうさまでした」



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