①憑き物落とし~『怨炎繋系』~

『墓標』


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 それから、もう一度私が目を覚ますまで、一週間の時が流れていた。
 

 病室のベッドの上で、祖母が泣きながら私を抱き寄せてくれたとき、全ての因縁から開放されたのだと、理解した。

 ……いや、それは正確には少し違う。

 たしかに今までの因縁は断ち切られ、開放された。ただ、それと同時に新しい因果に、もう私は巻き込まれているのだ。

 祖母は、あの夜に私と玲二を寺に隠すと、『媒体』を持ち、一人『囮』として実家に残った。そうまでして私を守ろうとしてくれたのだが、今回の件で私以上に 酷く責任を感じてしまっていた。

 号泣しながらきつく私を抱きしめる祖母に、事の顛末を説明しても、優しい彼女は自分を責め続けていた。


 体が完全に動くようになるまで、それから更に二週間の時間が必要だった。医者の見立てでは、すぐに動けるように回復するはずだったのだが、傷の回復具合から判断し てもこうまで障害が残るのはおかしいと話していた。

 その理由は、恐らく私自身が何よりも深く理解している。この体は、いままでの私のものではない。あの 時、新しく生まれ変わっているのだから。

 あの醜く黒々とした火傷の痕も、信じられないことにみるみるうちに薄くなり、今ではもうすっかり元の肌に戻っている。

 ――灰川さんはあの炎を『呪い』だと言っていた。

 つまりこれも、あの時、『姉』を私の中に受け入れた影響なのだろうか。

  私には、どのようにしてあの『姉』をこの身に取り込んだのか、その記憶がない。

 それは恐らく、あのときの私と、今の私が同一の存在ではないからなのだろう。

 その事実だけは理解していても、実際の記憶が抜け落ちているのは、つまりそういうことだ。

 ――誰だって自分が生まれた時の記憶なんて持ちあわせていないのだから。

 この、私自身の起源については、深く詮索しないほうがいいのだろう。



 今の私が、今後『私たち』として生きていくためにも。



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