①憑き物落とし~『怨炎繋系』~
 私は病院を出てから、まっすぐに母の墓へと向かう。今の自分達を、母に見せなくてはならない。そして謝罪と感謝を伝えなくてはならない。

  木々の並ぶ山道を自然の声に耳を澄ましながら進んでいく。

 麓の墓地に入り浅神の墓へと向かうと、その墓標の前に花と線香を捧げる。

 事の顛末を話し、これか らの生き方を母の前で誓う。母の言葉は、私の耳には届かなかった。それでも、肌に感じた心地の良い風が、全ての答えであるかのように思えた。


「またくるね、お母さん」


 もう一つ、行かなくてはならないところがあった。


  私は都内へと戻り、その場所へ向かう。途中、柚子と久々に再会を果たした。泣きながら私に抱きつき、無事を心から安堵してくれていた。柚子はずっと私の見 舞いに来ようとしていたようだが、完全に解決するまでは待って欲しいと、私が柚子にそう話していたからだ。

 この日常に戻る前に、心の整理する時間が必要 だった。

 それができたから、今、私はここに来ることができた。




「……玲二」




 岡田家の墓標の前に、私は花を手向ける。



「ありがとう……」


 
 流れ落ちた涙が、花を濡らす。

 玲二のおかげで、今わたしは生きていられる。

 あなたがいてくれたから。前を、向いていられる。

 胸を締め付ける深い悲しみと、それを覆う感謝が、心を震わせて。震わせて震わせて――私を包み込んでいく。

 生きていくっていうことはこういうことなのだと、新しく理解する。

 何よりも大切なものを失い。

 絶望し、憎悪した。

 でも、誰もそのまま沈んでいくことを望んでなんかいない。

 前を向け。止まるなと、ただひたすらに激励してくれる。

 どんなに苦しくても内ばかりを見つめていてはいけない。

 ――時は今も流れているのだ。

 流されるのではなく、進んでいくこと。

 そうして初めて、私は自分と向き合っていける。


 ……あなたのことは、絶対に忘れない。この胸に灯して、決して絶やさず生きていく。


「……玲二、本当にありがとう」


 そう呟き、立ち上がる。


 その時、踵を返す私の元へと、意外な人物が近づいてくる。
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