愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
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桐生奈那子(きりゅうななこ)――彼女は太一郎と出逢ったことで、最も人生を狂わされた女性かもしれない。


奈那子の父親・桐生源次(きりゅうげんじ)は代議士だ。

彼はひとり娘の奈那子を真綿に包み、ガラスケースに入れるほど大切に育てた。奈那子の祖父は大臣を務めたこともあり、引退後も政界の重鎮と呼ばれる存在だった。その地盤を受け継ぐためにも、桐生は何としても後継者を得る必要があったのである。

奈那子は高校生のときに有力代議士の次男坊と婚約。大学卒業後はすぐに結婚する予定となっていた。


ふたりが出逢ったのは去年の二月、太一郎がW大で二度目の留年が決まったころのこと。彼女はF女学院大学音楽学部の二年生であった。

太一郎はいつもの合コンに顔を出し、初参加の奈那子をお持ち帰りのターゲットに定める。

方法は簡単だ。友人に金を掴ませ、ターゲットをトイレにでも連れ込み襲わせる。そこを助けに入り、店から連れ出すのだ。

服を引き裂かれ、ショックを受けている女性は「休んで行こう」というヒーローの言葉に素直にうなずく。

しかも、それが場末のラブホテルではなく、一流ホテルのスイートであるなら尚のことだろう。

太一郎はその手で奈那子をホテルに連れ込み、ほんのひと口かふた口、シャンパンを飲ませ……。翌朝、彼女が目を覚ましたときには、太一郎は望みのモノを手に入れ、欲望を満たしたあとだった。


普段ならそこでお終いである。

中には、太一郎を訴えると騒ぐ女もいるが……。自らの意思でホテルまで付いて来て、服を脱ぎ、シャワーを浴びた、と言われたら反論できない。

そのことを太一郎に恫喝され、泣く泣く諦める女性がほとんどであった。


だが、奈那子は違った。


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