愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
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六畳間の小さなテーブルに並ぶ、炊き立ての白いご飯と豆腐の味噌汁、味付け海苔、目玉焼き――。

これだけの朝食が無事に用意できるようになるまで、丸一ヶ月を要した。

奈那子は家を出るまで食事の用意などしたことがなく、太一郎にしても似たようなものである。それは食事に限ったことではなく、掃除も洗濯もすべてが手探りでママゴトにも似た生活だ。

奈那子はご飯の用意をして座ると、太一郎が先に食べ始めるまでジッと待っている。


「ああ、美味いよ」


口をつけた太一郎がそう言うと、「よかった」と微笑み食べ始めるのだ。

一緒に暮し始めた当初は、「太一郎さま」と呼ばれて困った。「さん」にしてくれと何度か訂正して、最近ようやく「太一郎さん」に馴染んできたところだ。


再会したとき、彼女には複雑な事情があり親元を飛び出していた。

だが、太一郎を訪ねることもできず……。手持ちのお金が底をつき、「仕事を世話してやる」と言われ、そのままラブホテルに連れ込まれる所だったという。

確かに“仕事の世話”には違いない。とんでもない野郎ではあるが、それを責める資格は太一郎にはなかった。


太一郎は奈那子の事情を知り、会社の独身寮を出た。

桐生はひとり娘を簡単には諦めないだろう。永遠に逃げ切れないのはわかっている。だが、せめて子供が産まれるまで時間を稼げれば……。

ほんの数ヶ月前まで、太一郎は人間のクズだった。

そんな男を、本気で愛してくれたのは奈那子ひとりかもしれない。

卓巳を想う万里子の姿はすぐに認めることができたのに、自らに向けられる想いになぜ気づけなかったのか。

太一郎の子供を産みたいと言ったのも、この奈那子だけだったのに。


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