愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
「太一郎さんの子供を殺したから、罰が当たったんです。でも、もう二度と中絶は嫌です。たとえ、父親が誰であっても……」


それは奈那子の抱える複雑な問題のひとつにすぎない。

彼女は大きな瞳に涙を一杯溜めて、ひとりで子供を産むつもりだ、と言う。

今度こそ……その願いだけは、どんなことをしてでも叶えてやりたい。

それが奈那子に対する“愛”にせよ、“贖罪”にせよ、太一郎の決意に変わりはなかった。



「奈那子、たいしたことじゃないんだけど……今日から仕事が変わると思う。多分、都心まで出るから、帰りは少し遅くなる。身体に悪いから、起きて俺のこと待ってるなよ」


まず、『名村産業』に行って荷物を整理し、挨拶を済ませる。郁美の様子を窺って、昨夜と変わってないようなら、等が社長を務める『名村クリーンサービス』に行けばいい。

会社は、電車で二十分程度の練馬区にあったはずだ。清掃が夜間になるならそれでも構わない。多少なりとも給料はいいはずだ。

だが、奈那子にはよく言っておかないと、一晩中でも起きて待っている女だ。


「あの……わたしも働こうと思います。この先、出産費用だってかかりますし」

「俺がなんとかする」

「でも、これ以上、太一郎さんにご迷惑ばかり」

「なんでも俺の言うとおりにするんだろっ。言ったはずだ、一年前は俺も学生で……色々藤原の面倒があって諦めたんだって。だから……今、お前の腹にいるのは俺の子なんだよ。迷惑とか二度と言うなっ!」

「太一郎さん……ありがとうございます」


奈那子は心からの感謝を籠めて、太一郎をみつめて言う。

その言葉に胸を締め付けられる太一郎であった。


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