愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
(40)愛から生まれぬ命
いつのころからだろう、父の奈那子を見る目が変わったのは……。

荒んだ目を娘に向ける桐生源次を見ながら、奈那子は考えていた。


母は小さいころから奈那子には冷たいまなざしを向けていた。そもそも、娘に関心がなかったのかもしれない。外に出て注目を浴びることが生きがいのような女性だった。

だが、選挙のときだけ、一家は仲のよい家族になる。

母は『内助の功』『良妻賢母』の呼び名欲しさに、人前ではことさら夫を立て、奈那子を可愛がってくれた。

その裏事情を知ったのは、奈那子が成長してからのこと。

幼いころは何も知らず、ピアノやバレエ・絵画と習い、コンクールがあるたびに出場していた。マスコミの視線を引くような場所に立つと、必ず両親が来てくれるからだ。

そんなとき、両親――とくに優しい母の存在を感じ奈那子は幸せだった。


父と距離を感じ始めたのは……おそらく小学校に上がったころだろう。

それまでも、男の子ならもっと祖父に喜んでもらえたのに、そんな言葉を耳にしたことはあった。だが、それでも父が奈那子に向けてくれる笑顔は本物だったと思う。

しかし、ある日を境にパッタリと無くなった。

だからこそ、小学生の奈那子は自分を責め、両親にとって自慢の娘であろうと懸命だった。

余計なことは言わず、いつも笑顔を浮かべ、両親の命令にはすべて「はい」と答え続け――。


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