愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
「名村社長は、昔は立派な人だったんだ。でも、一緒に苦労した嫁さんを五年前に亡くして……水商売の女が悪いとは言わないが、性質の悪い女に引っかかったもんだよ」


伊丹も社長夫人・郁美と義理の息子・等の関係は気づいていたという。

それどころか、郁美は大学生のアルバイトにも手を出しているそうだ。無論、名村は知らない。

名村自身は家が非常に貧しく、子供のころからかなりの苦労をして来た。そのため、子供たちには不自由ない生活をさせてやろうとしたらしい。


「それが裏目に出たんだろうなぁ。息子も娘もまともに働きゃしない」


それでも、伊丹は太一郎の働きぶりを名村に話してくれたという。

だが「郁美は嘘をつくような女じゃない。お前も騙されているんだ」と受け入れてはくれなかった。


「等さんの会社か……。あそこは女が多いからな」


太一郎が、郁美から等の会社に入れるように口添えしてもらったことを伊丹に話すと、こんな答えが返ってきた。清掃員はパートが多く、男は勤め難いと言われ、さらには……。


「お前、あの女に気に入られたんじゃないか? 気をつけろよ。あの女の目当ては金かセックスだ」
 

伊丹の言葉は的を射ている。

だが、郁美が気に入ったのは“藤原”の金だろう。


「あの……今度のこと、岩井のばあちゃんに上手く伝えておいてもらえませんか? 俺が悪いことをしてクビになったんじゃない、ってことだけでも」

「ああ、わかったよ。また家に行ってやれよ。婆さん、お前のことをホントの孫みたいに可愛がってたからな」


その言葉が妙に嬉しくて、少し悲しい太一郎であった。


荷物は駅のコインロッカーに預け、等の会社に向かおうとした太一郎だったが……。

突如、彼の横にトゥルーレッドのロードスターが停まった。


「はぁい、太一郎くぅん。ご機嫌いかが?」


運転席からサングラスを外しつつ、声を上げたのは――。  


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