愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
ガラス越しに横たわる小さな娘の姿を確認したあと、太一郎はICU――集中治療室――に移された奈那子の傍に行く。

卓巳は万里子に事情を話してくると言っていた。


「万里子には母子ともに無事だと伝える。私は嘘つきになる気はない。ふたりとも必ず助かる。たとえ何があっても、お前だけは絶対に諦めるな!」


卓巳の言葉を何度も思い出すが……。


医者は、今回のケースだと子供のふたりにひとりは亡くなる、と言った。

まだまだ予断を許さない。容態が急変したら連絡します、と院内で使える携帯電話を持たされた。


ICUには専用のガウンとキャップを着用しなければ入れない。指の一本一本まで丁寧に洗い、履物も替えて入室する。

そしてベッドに横たわる奈那子は、今にも消えそうな顔色をしていた。


太一郎の胸に、喜びより後悔が湧き上がる。

何もかもが、桐生の愚行すら自分の責任に思えてならない。


そもそもの始まりは、奈那子に対する愛情ではなかった――その想いが、何より太一郎を苛んだ。


どれくらい、無言でみつめていただろう。

「た、いちろう、さん」


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