愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
茜には、手を上げたことがあった。

太一郎はそのことを思い出し、ベンチから離れ地面に腰を下ろす。


「あの……伊勢崎って?」

「親父の旧姓だ」

「藤原はどうなったんですか?」

「どうもなってない。卓巳がちゃんと守ってるよ。俺が家を出ただけだ」

「でも、なんで清掃員を?」


太一郎は仏頂面のまま天を仰いで答えた。


「悪いことをやったら、便所掃除と決まってるそうだ」


その返答に、茜は声を上げて笑った。

笑われて愉快ではないが、泣かれるよりマシだろう。


太一郎はしばらくして立ち上がると、


「俺、行くから。できたら、誰にも俺のことは言わないで欲しい。頼む」


キャップを手に持ったまま、頭を下げた。

すると、茜は交換条件を突きつけてきたのだ。


「一発、殴らせて!」

「……」


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