愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
そこまで言うと宗は相好を崩した。


「と、いうのは受け売りですが。何方(どなた)のお言葉かは、言わずともおわかりでしょう」
 

太一郎は答えなかった。だが、心にひとつの名前が過る。

今でも、思い浮かべるだけで胸の奥が温かくなる笑顔が、彼の胸の中心を占めていた。


「太一郎様、私はあなたの味方です」


深夜に呼び出したにも関わらず、宗は怒る様子もなく、太一郎の釈放の手続きに尽力してくれた。

最後に優しい言葉を太一郎にかけ、新しい仕事はすぐに見つけると約束し、引き上げたのだった。



人生は愛に満ちている。


手を伸ばし、愛しさえすれば……其処彼処(そこかしこ)に愛は溢れているのだ。
 

だが、今の太一郎にとって“愛”は太陽のように熱く眩しかった。

手に入れるためには、心と身体を焼き尽くすほどの犠牲を必要としたのである。


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