愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
そんな太一郎の了見も知らず、奈那子は……だから二度と恋人には戻れないし、妻にもなれないと嘆く。


太一郎は奈那子と少し離れると、頬に張り付いた彼女の髪を払いのけた。

そのまま、そうっと唇を重ねる。奈那子とは約一年ぶりのキスだ。こんな穏やかな口づけも悪くない。


その瞬間――太一郎の心を掠めるように、茜の笑顔がチラついた。


茜の告白に、不思議な感覚を覚えたのは事実だ。彼女には借りがある。

だがそれ以上に“何か”を茜から感じた。


しかし彼の目の前には、生気のなかった頬がキスひとつで桜色に上気し、嬉しそうにはにかむ妻がいる。


太一郎は心の中から茜の存在を打ち消した。


「余計な心配すんじゃねぇ。子供が産まれたら……いくらでも抱いてやるよ」


太一郎の言葉に、奈那子はもっと赤くなる。

それを見ていた彼自身も、甘ったるい空気を胸いっぱいに吸い込み、咽せそうだった。



「あらぁ。あたしったら、お邪魔だったかしら?」


スライド扉が開き、きつい香水の匂いと共に耳障りな声が部屋中に響く。

女でありながら、これほど産婦人科が似合わない女も珍しい。名村郁美だった。


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