愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
(12)果てしない悪意
社長夫人である郁美の来訪に、何も知らない奈那子は恐縮しきりだった。


「ひょっとして、ご近所の方が会社に連絡したんでしょうか? ご迷惑をおかけして申し訳ございません」


慌てて姿勢を正し、郁美に頭を下げる。

近所の人間は太一郎が『名村産業』から『名村クリーンサービス』に移ったことを知らない。奈那子が運ばれるのを見かけた誰かが、親切心から『名村産業』に一報を入れたのだった。

そのことを郁美は声高に言い上げる。


「ほぉんと、いい迷惑よねぇ。でも、うちの系列だし、伊勢崎くんにはとぉってもお世話になったから……。こうしてわざわざ来てあげたんだけど。ラブシーンの真っ最中なんて、随分お元気そうじゃない」


奈那子は恥ずかしそうに、頬を染めうつむいた。申し訳なさも感じているのか、細い肩を一層竦めている。


「奈那子、お前は横になってろ」

「でも……」

「お詫びなら俺がするから。とにかく、頼むからゆっくり休んでくれ」


渋る奈那子を強引に寝かせ、太一郎は郁美を押し出すように病室をあとにした。



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