愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
堕ちるときは、自分だけ堕ちればいい。どこかで野垂れ死ぬなら、それもまた自業自得だ。

太一郎が覚悟を決め、顔を上げたとき……。



「太、一郎……さん?」


奈那子より少し大きめのお腹をして、そこに立っていたのは――太一郎が女神と崇める、藤原万里子、その人であった。



「なっ! なんでこんなとこにいるんだよ! 皐月ばあさんが入院してた病院で産むんじゃなかったのかっ?」


まさか、藤原の社長夫人が、言ってはなんだが公立病院で子供を産むとは考えられない。

第一、卓巳が認めないだろう。


「去年、ボランティアに来てた幼稚園がすぐ傍なんです。仲よくなった園児のお母さんが出産されて……お祝いに。でも……わたしより、どうして太一郎さんが?」


万里子の問いに、太一郎は答えに窮する。

だが、その悩みはすぐに解消された。


「あら? 伊勢崎さんのご主人、もう来られてたのね。奥さん、シャワーを済ませてお部屋に戻られましたよ。赤ちゃんも順調ですよ」


太一郎の肩を叩き、奈那子の主治医である女性ドクターが朗らかに言った。

無論、悪気などあろうはずがない。だが、口を開けたまま、目をまん丸にしている万里子を見て、どう言って説明するか頭を抱える太一郎だった。


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