愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
(20)切ない事情
伊丹の話を聞き、太一郎は横になったまま目を閉じた。

さすがに忍耐強くなった彼だが、次に郁美の顔を見たとき、我慢できるかどうか自信がない。


「なんか、困ってるみたいだな」


奈那子が席を立ったのを見計らい、伊丹は声を潜めて言う。


「お前……ヤバイ男の娘にでも手ェ出したのか?」


どうやら伊丹は、奈那子の父親を暴力団関係者と勘違いしているようだ。

だが、このやり口を見ると大差ないと言わざるを得ない。しかも公的機関に影響力がある分、始末に負えない。

今日は助かった。だが、必ずまたやって来るだろう。

伊丹もそれを心配して、逃げた方がいいんじゃないか、と言う。


「悪いな……俺が寮住まいでなきゃ、うちに来いって言うんだが」


当座の足しに、と伊丹は財布からあるだけの金を引き抜こうとする。太一郎はそれを慌てて止め……。伊丹の思いやりに、心から感謝したのだった。


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