愛を教えて ―輪廻― (第一章 奈那子編)
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奈那子が太一郎の子供を妊娠して、中絶を余儀なくされたのは昨年夏。

奈那子の父・桐生代議士はそれをひた隠しにしようとした。


元々が、桐生は政治とは無縁の家に生まれた。

そのため、彼の後援・支持者はすべてが桐生……妻・美代子の父親に繋がった。齢(よわい)八十を越えながら、引退後も政界に影響力を持つ義父。

桐生代議士は娘を利用して、義父を越えるルートを開拓することに躍起になっていた。


その足がかりが、現職大臣を父親に持つ泉沢清二と奈那子の結婚である。

内々での婚約が整ったのは奈那子が高校を卒業する前のこと。当時は清二もまだ二十代半ば、どちらかと言えば、桐生が積極的に泉沢との縁を欲しがっていた。

だが、結婚は奈那子の大学卒業後、と言われ、渋々承諾したのだ。


その後、奈那子と太一郎の一件は、当然のように泉沢の耳にも入る。

婚約解消を覚悟した桐生だったが、今年に入って泉沢側から結婚予定を早めたいと言われたのだ。『必要なのは家同士の結びつき』――疵物となった娘の処遇に困っていた桐生は、その言葉に飛びついた。


ところが、肝心の奈那子が清二との結婚を断固拒否する。彼女は太一郎の『必ず迎えに行くから』という言葉を信じていた。

しかし、桐生はそんな娘の寝室に、強引に清二を送り込んだのだ。

奈那子は抵抗したが…………。


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