深淵に棲む魚


 声にならない悲鳴。




 脂ぎった顔が見る見るうちに青ざめ、驚愕し、恐怖へと変わり出す。





「ぼ、ぼぼぼ、僕、あ、あの」


 男は上下左右に目まぐるしく視線を泳がせ、頭を掻き毟りベッドから離れた。

 脇に脱ぎ捨てた汗まみれの服を拾い上げる。

 私の動きを視界の端に捉え、それらをめちゃくちゃに着けて行く。



 化け物を見るような目つきだった。



 最後に「うひゃ」と鳴き声を上げた男はガチャガチャ扉を乱暴に開くと、走り去って行ったのだった。




 私はベッドの上から男を眺めていた。






< 30 / 161 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop