あの時とこれからの日常
腕がいいのは見ていればわかる

周りからの信頼も厚いし、患者への対応も見事なものだと思う

でも、どこか一匹狼のような気配があるのは気のせいだろうか

「あ、そうだ。黒崎先生」

しるふの呼びかけに視線だけを向けてくる海斗は本当にリアクションに乏しい

「黒崎先生って、医院長の息子さんなんですね。まったく気が付きませんでした」

そういうお前はそれが爆弾発言だと全く気が付いていないだろう

と心の底から突っ込みたかったのは、後にも先にもこの瞬間だけだと思う

気が付かないほどかすかに海斗の瞳が細まる

探るような瞳を向けてしまうのは、幾度となくそう言われ、一度だっていい思いをしなかったから

「そうだけど、それがどうかしたか」

短く、最小限の言葉に含まれる棘

「どうかしたわけじゃないんですけど、ただ、ああ、そうなんだなって言うだけです」

そう、ただそれだけ

それで何かが変わるわけじゃない

悔しいけれど、海斗は実力も伴う医院長息子だ

名ばかりの医者とは違う
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