あの時とこれからの日常
「俺は女にプロポーズされる趣味はない」

はっきりとけれどさらっと告げる海斗の言葉に、今度はしるふの動きが止まる

しっかりと数秒間、しるふは海斗の言葉の意味を考えていたらしい

難しそうに眉を寄せ、そして、ふと自分の発言を思い出したのだろう

「なっ!!あ、あれはそういう意味じゃなくて!!ただ単に海斗の料理はおいしいからずっと食べてても飽きないなって!だからずっと食べてたいなって!!…あれ?これじゃ言ってること一緒?と、とにかく!!別に深い意味はッ!!」

「ごちそう様」

独り慌てふためくしるふを尻目に、食べ終えて空になった食器を重ね、席を立つ

「ちょっと!!海斗!!ねえ!!本当に深い意味なんてないからね!!」

キッチンに食器を運ぶ海斗の背にしるふの慌てた声がかかる

「わかってるって。しるふはそういうところ天然というか無頓着というか、いちいちこっちも深くとらえてないよ」

心配そうに見上げてくるしるふを見下ろしながら、これはこれで失礼な発言かもしれない、と思う

「それって、逆に失礼なんですけど」

「…やっぱり?」

だよなー、と思いながらでも、事実だ、と思い直す

「ま、時期が来たらこっちからちゃんと言ってやるから、今は冷めないうちに食べとけ」

そう告げてソファに腰かけるために止めていた歩を進める海斗の背に

「本当?」

高めの澄んだ声がかかる
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