あの時とこれからの日常
それが嫌で、やりにくさから医者を辞めようと思ったのはもう昔のことだ

「慣れちゃだめだよ。嫌なことは嫌って言わなきゃ。事実じゃないことは違うって言わないと図に乗るだけだよ」

険しい表情をするしるふに海斗が笑う

「言わせておけばいいさ。どうせお先長くないんだ」

「お先短いひとばっかりじゃないじゃん。それにさ、ああいうのってネズミ方式に広がったり、尾ひれがついたりするものじゃん」

だからちゃんと言わないとだめだよ

「それにさ、」

一度言葉を切るしるふに、海斗が視線を送る

「それに傷つくのは海斗じゃん。海斗は、黒崎先生は七光りでも何でもないのにさ、しかもそこら辺のご令嬢に手なんて出してないのにさ、何が七光りよ裏口入門よ、挙句の果てに夜の方は順調ですかですって!?あのひげ面のほうがよっぽど女で遊んでるじゃない(きっと)。そういうことはしっかり見てから言いなさいよっての。何様よ。どこかの大学病院の会長だか知らないけど、人を見る目無くて人の上に立つなっての。つか、あいつに上に立たれるとか死んでもごめんだわ」

最後にはあ、と肩で息をしたしるふに海斗は小さく笑みを宿しながら

「少しはすっきりしたか?」

ベンチの肘に頬杖を突きながらそう問いかける

「まあね」

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