あの時とこれからの日常
まだ怒りを湛えた瞳のまましるふは頷く

その答えにふっと笑いながら屋上からの風景に視線をやる海斗の耳に、しるふの少し落ち着きを取り戻した声が響く

「嫌なのよ」

再び視線をしるふに移すと、手の中でもてあそぶココアのパックに視線を注ぐしるふがいた

「海斗はさ、辛いとかあんまり言わないじゃん。本当は誰よりも特別視されることを嫌がるくせに、なのにあの人たちの言葉に言い返さないんだもん。そうやって傷ついてさ、それでも一人で抱えるんでしょ?」

それが嫌なのよ

ふと視線を上げてきたしるふの瞳には、怒りではなく哀しさがあった

いくら慣れたと言え、すべてを受け流せるわけではないはずだ

言い方や頻度によっては傷つくことだってあるだろう

それを海斗は言わないのだ

おくびにも出さない

それが嫌だ

しるふの言葉にふと優しげな瞳をした海斗は

「意外と心強いもんだよ。ちゃんと自分を見てくれている人がいるって言うのは」

そう言いながらしるふの頭を少し強めに撫でる

たとえどんなに心無いことばを投げかけられようとも、ちゃんと海斗を、黒崎先生を理解してくれる黒崎病院の面々がいれば、それだけで受け流すことができるのだ

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