あの時とこれからの日常
歓迎会も中盤に差し掛かり、そろそろ医局陣営の形が崩れ始めたところで

司会役の矢吹の低い声が会場に響く

ざわついていた会場が一瞬にして静まる

「では、ここで本来なら医院長から歓迎の言葉をいただくことろですが、残念ながら医院長はご存じのとおり海外で活躍中ですので、ここは、ERの黒崎海斗医局員から有りがたいお言葉を頂戴したいと思います」

丁寧にそう述べて海斗に視線を寄こす矢吹に、海斗が一瞬固まる

「……聞いてないんだが」

海斗の名にざわざわと騒ぎ出す会場で、隣に居るしるふや神宮寺に海斗ため息が聞こえる

そう言いつつも、椅子から立ち上がって会場を通り抜け

矢吹のいる檀上脇へと移動する海斗に、しるふはそっと微笑みかける

そういうところ実はちゃんと医院長息子としての自覚のある海斗だ

マイクを行け取りながら矢吹と一言二言話した海斗は軽やかに壇上に上がる

瞬間、ざわめく会場

何も言わないのは、古株陣とER

少しだけ黄色い声が聞こえるのは、気のせいじゃない

にしてもそんなに高い檀上じゃないのに、やっぱり見栄えするなー、と

内心でなぜ俺が…と思っていてもそれを微塵も見せない海斗を見つめながら

ふとそんなことを思う
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