赤い靴
「俺は、父さんみたいに、靴を作る人になりたい。そして、いつか、自分の店を持って、そこで、父さんと一緒に靴をつくりたいんだ」

 自分のようになりたい、そう言う息子を、父は、目を細めて、顔をしわくちゃにしながら、とてもうれしそうに眺めていた。言葉数が少なくて、無骨な父は、ただ一言「そうか」と返事をしただけだったが、それでも、俺には、父が、俺の決断を喜んでくれていることがよくわかった。

 やがて、高校を卒業した俺は、専門学校へ進学した。日本で唯一、靴作りの本場イギリスで一流職人の称号を授与されたという人物が設立した学校だった。
 初めて親元を離れて、慣れない独り暮らしをしながら、昼間は、デザインや工法などを学び、夜は、アルバイトに励んだ。俺は、専門学校を卒業したら、イギリスの学校に留学したい、と思っていた。専門学校の設立者が通ったという、本場の学校に。

 学校は楽しかった。なによりも、憧れの世界に一歩ずつ近づいているという実感を得られて、俺の毎日は充実していた。日々は、ものすごいスピードで過ぎていく。そして、いつしか、卒業の日が近づいてきていた。
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