赤い靴
2. ロンドンにて
 俺の父は、靴職人だった。大手靴メーカーの商品企画部に勤めていて、靴のデザインや製作を手がけていた。
 父は、専らの仕事人間で、いつも、家に仕事を持ち帰っていた。夕食を食べ終わると、家の離れに閉じこもって、持ち帰った仕事に熱中する。そんな父に対して、遊んで欲しい、と駄々をこねる幼い俺を母はいつもなだめていた。母はよくこんなことを言っていた。「ああやって、1つのことに熱中するあの人に、私は惹かれたのよ。だって、子供みたいでかわいいんだもの」
 幼い頃は、仕事ばかりやっている父に駄々をこねていたおれだったが、大きくなると、仕事をする父に興味を持つようになり、いつしか、夕食後、離れへ移動する父の後についていくようになった。

 あるときは、学校の宿題を持っていき、父のそばでやって、またあるときは、父の仕事を少し手伝ったりしながら、俺は成長した。

 いつしか、父の姿は、俺が望む自分自身の未来の姿になっていた。

 多感な思春期の頃は、自分の親に、将来の夢とかを話すのは恥ずかしいことでもある。それでも俺は、ある時、父に、自分の夢を話したのである。
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