神様修行はじめます! 其の三
「端境の当主よ・・・」


あたしの腕の中で絹糸が身動きした。


まだ少し苦しげな声で、それでも懸命に話しかけている。


「確かに千年前の事を知る者はおらぬ。だが、我がここにおる」


「・・・・・」


「千年前、何があったかを白日の下に晒そう。お前も言い分を主張するがよいわ」


絹糸が体を起こした。


そして雛型を見ながら切々と訴える。


「もう無体な真似は、よせ。せめて静かに眠らせてやれ。不当というならこの仕打ちこそが・・・不当じゃ」


「自分の足を踏んだ相手に不当呼ばわりされるは、まさに心外」


拒絶の意思を持った声が赤い唇から決然と放たれた。


「知るも知らぬも、晒すも晒さぬも、もはや過ぎた。門川の罪を決める権利は、我等が端境にあり」


「それでは千年前の門川と同じであろうが!」


「そう。やられた事をやり返すまで」


「同じ過ちを繰り返すでない!」


「それをするもせぬも・・・・・」


白塗りの顔。

瞬きもしない両目。


赤い唇が動き、闇に染められた歯が覗いた。


「全て、われらが決める事」


雛型の紙をつかんだ生白い指に力が込められる。


「・・・・・よせっ!!!」

絹糸が悲痛な声を上げた。


セバスチャンさんの手が、自身の髪を束ねた紐に素早く伸びる。


シュルッと外れた紐が一本の細長い針に変化した。


針はキラリと光り、セバスチャンさんの手から放たれ、空を切って飛ぶ。


―― キンッ! ――


結界に阻まれ、針は音を立てて虚しく床に落ちた。

あぁ・・・・・・!!


同時に、一気に雛型の顔から紙が剥ぎ取られた。

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