神様修行はじめます! 其の三
愛する家族が犯してしまった罪だ。


共に背負えというなら背負いもしよう。


償えというなら、償おう。


だが・・・死ぬ必要まであるのか!?


殺されてしまうまで、そこまで、償わなければならないのか!?


それを甘んじて受けねばならないのか!?


その行為は許されて良いのか!?


夫は、床板に爪を立てて掻き毟りながら訴える。


両目からボタボタと涙が落ちて小さな水溜りをつくった。


うわぁうわぁと泣き叫びながら、ほとばしる感情を吐き出し続けた。


それは無情の苦しみに必死に耐え続けた人間の、魂の叫びであった。


『そうだ。それは許されるのだ』


夫の慟哭が・・・・・ぴたりと止まった。


『奪われたものが命ならば、代償に命を求めるのは道理。いささかも矛盾ではない』


床を掻き毟る手が

慟哭に激しく上下していた肩が


糸がぷつりと切れたかのように動かなくなった。


『それすらも償いには足りぬ。雛型が奪った命は、そこまでしてもひとつも還っては来ぬ』


大きく見開かれた両目から


今まで耐え続けてきた夫の精神から


何かがガラガラと音を立てて崩壊していく様が見えた。


『犯した罪は永遠に消えぬ。「償い」など、実は詭弁。何をしたところで雛型と家族が許される日など未来永劫、無いわ』


その時、夫は・・・・・


やっと悟った。


全て嘘だったのだと。


自分達はただ利用されたのだと。


妻の罪が許される事は絶対にないのだと。


― 必ず迎えに来てくださいますね? ―

― 必ず、きっと迎えに行こう ―


あの固い約束が果たされる日はもう・・・永遠に来ないのだと・・・。
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