神様修行はじめます! 其の三
「夫の心はついに壊れた。常軌を逸したように暴れ回った。その場で捕らえられて・・・」


「まさか、門川に処刑された・・・の?」


「まだ悪い。捕らえられ、端境一族に引き渡された」


・・・引き渡された!?


そんな! 猛獣の前にケガをした草食動物を差し出すようなもんじゃないの!


そんな事したら・・・!


「その日より、夫の姿を見た者は誰もおらぬ」


「そ、んな・・・」


「夫の血縁筋も大勢が大変な目に遭うたらしい」


「・・・」


「そしてこの話の最後の顛末は・・・」


絹糸が、ぽつりと言った。


「皆が・・・忘れたのじゃ」


門川は雛型を騙して利用し、端境一族を追い落とし、満足した。


満足して・・・もう、用は無いとばかりに忘れ去った。


様々な一族の者達にとっても、この惨劇は暗い歴史じゃ。


無意識に心から締め出し、やがて代が移るにつれて記憶は薄れた。


我は当時、この世界の者達を憎んでおった。


誰がどうなろうと、どんな非業な事が起ころうと、我関せずで高みの見物じゃった。


勝手に殺しあうがよい、と・・・。


当然、すぐに記憶から消え去った。


皆が忘れた。忘却した。


ただの昔話。いや、昔話にもならなかった。


膨大な、遥かな時間の流れの中で、完全に風化してしまった。


そして千年もの長き時間の中で、雛型は・・・


償い続けていた。


誰からも忘れ去られ、見知った者も誰ひとりいない世界で。


罪を償えと責める者も、ひとりもいなくなってしまったこの世界で。


ただ延々と罪を償い続けていた。


いつか赦される日が来ると信じ


いつか夫と会えると信じ


いつか家族と再び暮らせる日を信じ


そして・・・・・千年。


「目覚めた雛型は、今日、事実を知ったのじゃ」
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