神様修行はじめます! 其の三
お父さん。お母さん。

真美。

絹糸、しま子。

お岩さん。セバスチャンさん。凍雨君。


門川・・・くん・・・


門川君、門川君、門川君・・・。


あの時別れた姿が浮かんだ。


絹糸の背に乗り、遥か遠ざかっていく彼の姿。


これが今生の別れじゃないと思い込もうとしたけれど。


やっぱり、予感、当たっちゃった。


もう・・・あなたに会えない・・・。


詠唱する侍女達の姿。天井の紙垂が揺らめく。


あぁ・・・言葉が・・・あたしをどんどん支配、する・・・。


抗うように目から涙がぽろぽろ零れ落ちた。


なんであたし、泣くの? あたしはこうするべきなのに。


これが正しい選択なのに、なぜこんなにも悲しいのだろう?


悲しいはずがない。


彼を守れて、誓いを果たせて、罪を償えるのだから悲しむ理由が無い。


だから・・・あたしは泣いては、いけない。


涙を拭こうとした。


手・・・まったく動かない。ピクリとも動かない。


全身が人形のように硬直してしまっている。


泣いちゃダメなのに、涙も拭けない。


ぽろぽろと涙が流れ続ける。


血の通わない人形のような身に、熱い涙の感触だけが命を実感させてくれた。


・・・ふと、頬を滑る冷たい指先を思い出した。


『君の涙を拭くのは僕の役目だ』


・・・・・


どおっと勢い良く溢れた涙が頬を伝って床に流れ落ちる。


顔の筋肉も動かず、泣き声すらもう出てこない。


頼りなく吐き出す呼吸の音が、あたしのすすり泣く声の代わりだった。


次から次へと、誰にも拭かれることの無い涙がボタボタと落ち続ける。



門川君、門川君。


ねぇ、聞こえる? 聞こえてる?


涙を拭いて。


止まらないの。お願い。拭いて。あの日のように。


どうかここへ来て・・・あたしの涙を・・・


あなたの冷たい指で・・・拭い、て・・・・・



「皆の者、見よ! ついに新しき雛型の誕生であるぞ!」


あたしの世界は、真っ白に染め上げられて・・・途切れた。

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