神様修行はじめます! 其の三
「今じゃ。始めよ」


女の声を合図に、複数の女達の唱和する声が聞こえ始めた。


言霊だ。


門川の侍女達が術式を発動し始めたんだ。


ぼんやりと意識の薄れた頭で、ただそれだけ思った。



何を唱えているのかハッキリと聞き取れなかった。


恐怖も感慨も、何も無かった。


力無く床にヘタリと座り込み、カクンと頭を下げたままで・・・


『こうするべきだから、あたしはこうするのだ』


その確信が心を支配していた。


白木の室内に響き渡る女達の言霊。


緻密に計算されつくした輪唱の様に連なる言葉の数々。


でもどこかズレた不協和音のように、不可解に延々と響き続ける。


読経のように続く、続く。


響く、響く。


耳の奥に。頭の芯に。


そして言葉の色彩が膨張してあたしを支配する。


声が、言葉が、この場を支配していく。


力を宿す門川の言霊。


天井の紙垂がゆらゆらと風に吹かれるように揺らめいた。


空気がピリピリと緊張する。


力が・・・気の力が一気に凝縮し始めている。


「さあ、いよいよじゃ。千年振りの術式が発動するぞよ」


逆にあたしの意識は遠のいた。


まるで逆らえぬ眠気に襲われる様に、頭の中がどこかへ強引に引っ張られる。


急速に遠ざかる意識に体が付いていかない。


頭と体が分離されるような気持ち悪さを感じた。


あぁ・・・きもち、わる・・・

痺れ、る・・・浮く・・・吐く・・・


耐え切れず倒れこんだ床が真っ白に輝く。


この円陣は・・・術式の円陣・・・


指先ひとつ動かせないあたしは、それでも想い続けていた。


頭の中に色んな情景が浮かんだ。

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