神様修行はじめます! 其の三
暗黒魔犬の黒い体毛は、それ自体が意思を持つかのように逆巻き蠢いている。


ずらりと生え揃った真っ白なキバは、上下共、捻じれて四方向へ伸びていた。

その一本一本が、まるでサイの角のように太い。


変化した絹糸に比べればまだ小柄だけど、それでも普通にビビるデカさ。


人の上半身くらい余裕で噛み砕きそうな巨大な牙が、鈍く光ってあたし達に狙いを定めている。


「うがああぁ――!!」

負けじと咆哮するしま子が、魔犬とあたし達の間に勇ましく立ち塞がった。


今にも噛み付く寸前の太い牙を、しま子の大きな両手が鷲掴みにする。

その場に組み合ったまま、双方一歩も動かない。


「しま子! 頑張って!」


あたしの声援に応えるように、しま子の両腕の筋肉がビクビクと震える。


鬼の剛力で押さえ付けられた魔犬の頭が、ひどく苦しげに暴れた。


均衡した力が双方を攻め、しま子と魔犬の足が土にググッとめり込む。


しま子頑張れ! 犬なんかに負けるな!


「があああ―――っ!!」


しま子の両肩の肉がボコリと盛り上がり、牙を掴んだまま魔犬の体を頭上高く持ち上げる。


全身をバネのようにしならせ、すごい馬力とスピードで地面に叩き付けた。


―― ドゥッ! ドゥッ! ドゥッ!


勢い良く連続強打された魔犬の体が、地面で激しくバウンドする。


悲鳴を上げて抵抗していた魔犬は、やがて力尽きて動かなくなった。


「やった! しま子!」

力比べで負けるもんか! うちのしま子は最強の鬼なんだぞ!


「天内君! 来るぞ!」


ハッと振り返ると、左右上空から魔犬が同時に飛び掛ってくるのが見えた。


げ!? 二匹同時!?
一匹でも、こんだけ厄介だってのに!

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